残業代の不払い 解決事例1

管理監督者の主張が排斥され、
300万円で和解

40代 Xさんは、母と暮らす40代の男性です。数百人の従業員がおり、複数の事業所を有するY社の営業マンとして入社しました。
Xさんが入社後、Y社の経営は次第に苦しくなり、本社から各営業担当者に対しては、「とにかく売上げの数字を上げろ」と強いプレッシャーがかけられました。他の従業員はY社の圧力に耐えられなくなり、退職していき、その結果、残ったXさんが役職者になりました。その後もXさんは営業の成績を上げるために月に80時間~100時間もの残業を行うようになりましが、役職者との理由で残業代は一切支払われませんでした。
長時間の残業と数字中心のY社の方針に耐えられなくなり、XさんはY社を退職しました。

退職後、Xさんは当事務所に残業代請求のご依頼をされ、当事務所からY会社に対しては、残業代を支払うよう内容証明郵便で書面を送りました。
しかし、Y社は、Xさんが管理職の立場にあったとして残業代の請求に一切応じませんでした。担当弁護士は、交渉では埒が明かないと考え、その後、労働審判の申立を行いました。
労働審判では、Y社の主張は認められず、300万円の審判が下されました。Y社側は、審判の内容に納得がいかないとして、異議を申し立てましたが、訴訟でも裁判官の判断は覆らず、早々に300万円での和解が成立しました。

解決のポイント

① 残業の証拠
残業代請求をするためには、残業をしたことを証明しなければなりません。タイムカードは、残業立証のための重要な証拠ですが、タイムカードが存在しない会社が多いのも実情で、Y社にもタイムカードはありませんでした。
タイムカードで管理されていない場合には、何かしらの方法で残業時間を立証しなければなりません。Xさんの場合、会社から送ったメールが重要な証拠になりました。会社から送ったメールは、その送信時刻までは会社にいた証拠になり、その時刻まで会社で残業を行っていたことを推測させます。Xさんの事件では在職中に保存していたメールを印刷し、その時刻を元に残業代を計算しました。
本件では、結果的に、概ねその計算で算出した残業代が認められました。

② 管理監督者の反論
本件では、Y社から「Xさんが管理職であった。」との反論が出ました。これは、Xさんが在職中、役職に就いていたために、労働基準法41条2号の管理監督者に該当するとの主張です。この管理監督者に該当すれば、会社は深夜の割増分を除いて残業代を一切支払わなくてよいことになります。
しかし、この管理監督者というためには、単に、役職に就いていたというだけでは足りず、「経営者と一体的立場にあった」という高いハードルを立証しなければなりません。その点、世間でいういわゆる「管理職」とは全く異なる概念と言っていいでしょう。
結局、本件でも、会社側はXさんが管理監督者であることを立証できず、主張は排斥されました。